地域フィールド

「有機溶剤の強い匂いが漂う工場で、70歳を過ぎても朝5時から夜6時まで働く。15歳から職人一筋、字を読むことはできるが書くのは難しい。病気が見つかってもどうしようもなく、知るのも怖いので検診には行かない。それでも、ものづくりが好き。街中で自分の靴を履いている人がいればわかるという。働くことは苦しいことも多いが、喜びも多いと感じた。その人を知るためには、その人を取り巻く現状についても知る必要がある」…靴職人に密着したグループの考察です。労働者への密着と、平和や労働・原発に関する調査を行う7つのグループに分かれ、3日間のフィールドワークを通じ、社会と医療の関係を学びます。

地域フィールドでの学び

I. はじめに

勤医会東葛看護専門学校では、日本国憲法と(旧)教育基本法を教育理念に置き、平和で豊かな社会建設の形成者として貢献できる民主的で人間性豊かな看護の専門家の養成を目指している。
地域フィールドは、「地域社会の実態をフィールドワークをとおして学び、国民の命・健康・生活・労働を護る医療・看護の役割を学ぶ。」ことを目的に行っている。「患者さんの生活や労働実態を知らずには、健康を害した原因が見えてこない。」「正確な病態の理解なしには患者さん本当の辛さをわかることはできない」と考え、労働現場や福島の現地へ行ってありのままの事実から学ぶことを大事にし、開校以来取り組んでいるカリキュラムである。
 本校の教育活動を共同事業として取り組んでいる東京民医連のフィールドを中心に、企業・町工場で働く労働者、自営業者、医療労働者、アスベスト問題や基地問題・原発問題で被害を受け闘っている人々に密着し、労働体験やフィールドワークを通して学びを深めてきた。様々な背景をもって入学してきた学生たちにとって、密着して自分の知らない世界を体験し見聞きすることで、病院から地域社会に視野を広げ、医療実践は病院の中だけではないことを学び成長していく。

II. 18期生の地域フィールドの実践から

地域フィールドは、1年次より基礎実習、成人看護学実習1、各論領域実習(外科・母性・小児・精神)の実習を経て、患者さんの置かれている状況を学んだうえで2年次後期に取り組んでいる。
2013年度18期生は社会学で日本の近現代史を学び、事前に特別講義として、1)山田功元校長「なぜ地域フィールドを学ぶのか」2)三上満元校長「憲法と(旧)教育基本法」を受けて、①労働者の労働実態と健康問題(町工場2グループ・建設労働者・農業)、②平和、③原発問題、④医療労働者の労働と健康問題(看護労働・介護労働)、⑤労働者の雇用問題、⑥教育労働と教育の9フィールドに分かれて2014年2月5日~7日の3日間を中心に取り組んだ。
また、その後も特別講義として、3)労働者教育協会常任理事の江口健志さんから「現代社会と経済、格差と貧困」4)働くもののいのちと健康を守る東京センター副理事長の色部祐さん、東京過労死を考える家族の会代表の中原のり子さんから「労働者の労働実態、労働と過労死の関係」の講義を受け研究を進めていった。

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その学びの一部を紹介する。

1.お金なんかいらないから、今までの生活を返して!!(原発グループ)


2.建設労働グループ


III. 考察

地域フィールドは、実際の現場に行き、生の声を聞き直接見て自分の身体で体験し、事実から学ぶ実践である。これまで生きてきて考えたことのなかった社会問題に向き合い、長時間労働に不満を言わず介護現場で働いてきたある学生は、「何が正しいのかわからない。今まで不満も言わず働いてきた自分を否定されるとおかしくなりそうだ」と記述している。これまで仕方がないとあきらめてきた労働者としての経験が実は権利が護られていないことだったと気づく。
高卒ストレートで進んできた学生は、「なぜ地域フィールドをやるのだろう?」「看護学校でなぜ町工場に行くのだろう、農業や教育について学ぶのだろう?」と迷いながら参加していた。被災者の「お金なんかいらない。以前の生活を返してほしい」、アスベスト被害者の「危険性を知りながら30年近くも規制してこなかった政府は責任を取ってほしい」の生の声が胸につきささり、現在の社会の仕組みや政治が国民の立場を護ることよりも大企業の利益を守ることに向いていると気づいた。「これまで日本のことに興味を持ったことがなく、政治や憲法にも目を向けてきていないことを知った。」「このままでは国民の権利が護られる社会ではなくなってしまう。」と青年らしい憤りを覚え、「あまりにも知らな過ぎた」「何とかしなければ」と目覚めていく学生もいる。さらに、フィールドワークで見聞きした実態の根源をその後文献や講義から紐解いていくと、「今の日本は安保により医療や経済、労働、食の安全に危機がおよび、最後の砦であった憲法まで改悪されようとしている。平和でなければ充分な医療を、皆が平等に受けることはできない。安心して働き、生活が営めて、健康を維持できる、そのためには平和と医療、憲法を護ることと日米安保の破棄は切り離せない問題だと考える。」と学びを発展させていく。
それらの学びを通して、学生自身が自ら考え行動する力になっていく学びであり、どの学生も逞しく成長している。また、グループで学びあい、どんな看護師、医療者として働いていくのかを仲間と深めていく。力を合わせれば膨大な学びも成し遂げられるということを労働運動の歴史と重ねて実感していく。
18期生の学びを通し、学生自身の実体験としてつかんだ「事実」とそこから見える矛盾や疑問を自分たちの力で探求し解明していく「学び」の持つ力こそが、(旧)教育基本法が言う「実際的に学ぶ」学びであると実感した。また、困難があっても逃げ出さず立ち向かい逞しく生き抜いている被災者や遺族をはじめ、よりよい社会にするために粘り強く闘う住民、医療者や誇りを持って働く労働者との出逢いは、学生たちが「働くとは人間にとって何なのか」を考え、人間は常に発達する存在であるという人間観や労働観を発展させていく学びとなる。
 地域フィールドは、「人権擁護の立場に立つ看護の実践者」として育つための重要な学びの場であるということを再認識した。

IV. おわりに

地域フィールドの学びは、東京民医連のフィールドを中心に多くの地域の方々に支えられている。フィールドとして協力していただいた多くの方々に感謝し、今後もこの学びを発展させていきたい。